『ディエンビエンフー』とは? What's DBP?

 

【概要】

『ディエンビエンフー』は1965年の開戦から、米軍完全撤退が果たされる1973年までを描く「ベトナム戦争」の物語です。『凹村戦争』でデビューし、続いて『世界の終わりの魔法使い』を発表した漫画家・西島大介の三作目にして最大の長編で、現在復刊や移籍による重複を含むと関連書籍は27冊に及びます。まず最初に物語のエンディングが提示され、「ベトナム史年表」によって描くべき史実が提示されていることも作品の大きな特徴です。

 

2001年に6ページの短編『とらしまもよう』を発表した後、その構想を元に2004年に角川書店(現KADOKAWA)の不定期刊行誌「Comic 新現実」で初めての連載をスタート。掲載誌休刊につき「未完」ではあるものの、2005年に『ディエンビエンフー』という名前の単行本が初刊行されました。

 

翌2006年小学館「月刊IKKI」に移籍し、角川版の続きではなく1話から描き直す形で新連載『ディエンビエンフー』をスタート。キャラクターが増え、また厳密な「ベトナム戦争史」を飛び出した旧王朝の物語や、ベトナム戦争終結後のカンボジア内戦のシーンも描かれ、物語は大長編となっていきました。しかし全12巻を刊行するも、掲載誌休刊によりまたしても物語は「未完」となります。

 

移籍先が見つからない状態で、設定やアートワークをまとめた『The ART of Dien Bien Phu』をグラフィック社より2016年に刊行。その時点で移籍先は見つかっていないものの、帯には「続きを描く気は200%あります」という言葉が記されていて、12巻の続きを描く13巻の構想も収録されています。

 

2017年、双葉社「月刊アクション」に移籍し『ディエンビエンフー TRUE END』と銘打ち完結編の連載をスタート。「最短での完結」を求め、IKKI版の11、12巻を無かったこと=「黒歴史」にする捨て身の作戦を取り、構成上大きな変化が発生します。1年半の月刊連載を経て、2018年9月12日単行本最終3巻を刊行。最初期の短編「とらしまもよう」から数えると17年を経て全ての物語は「本当の完結(トゥルー・エンド)」を迎えました。

 

【動機】

『ディエンビエンフー』は先行する様々な「ベトナム戦争」作品やイメージを参考に制作されていますが、最も大きな動機が次の言葉です。

 

「多くの場合、本当の戦争の話というものは信じてもらえっこない。すんなりと信じられるような話を聞いたら、眉につばをつけたほうがいい。真実というのはそういうものなのだ。往々にして馬鹿みたいに話しが真実であり、まともな話が嘘である」ティム・オブライエン『本当の戦争の話をしよう』より)

 

ベトナム・キャリア(従軍経験がある)の作家ですら「真実を伝えることの不可能性」を語らざるをえないとしたら、その反対に「遠い戦争を他者として軽薄に描く」ことで、真実にたどり着いてみようというのが、『ディエンビエンフー』のコンセプトです。ベトナム戦争という悲劇を、荒唐無稽に、マンガ的な想像力を用いて描き、しかし完全に史実に即していることでリアルでもアンリアルでもないとても珍しく不思議な「戦争文学」になりました。

 

【物語】

 二人はまだお互いを知らない。

 

ベトナム戦争開戦時1965年南ベトナムの首都サイゴン、米陸軍報道部所属の兵士「ヒカル・ミナミ」は、米軍と敵対するベトコン(南ベトナム民族解放戦線)の少女ゲリラ兵「プランセス」に出会う。カメラを構え、米兵をなぎ倒すなぎ倒すゲリラ少女をファインダーに収めたと思ったその瞬間、彼女の刃はヒカルの胸の上にぶら下がったライカを貫き、文字通り「ハートを撃ち抜かれた」ヒカルはその瞬間、恋に落ちた。

 

米陸軍特殊部隊彼女(グリーンベレー)を率いる巨漢ヤーボ大佐や、若き天才兵士ティム・ローレンスらとともに、解放戦線ゲリラを壊滅すべく「お姫さま」プランセス)」を探索に出発。激化し泥沼化していくベトナム戦争の中へ深く迷い込みながら、ふたりは出会い、恋をしていく。

 

1973年米軍完全撤退の日、戦争の終わりが二人を分かつまで・・・。

 

TRUE END化、黒歴史、パラレルワールドについて

2度の掲載誌休刊と移籍により出版社が三度変わっている本作は、結果的に一部分がパラレルワールド化しています。まず2005年刊行の角川版『ディエンビエンフー』が未完状態で刊行。翌2006年から小学館「IKKI」で、角川版とは設定が異なる「新規の物語」として新連載をスタート。第一部が米軍目線の「サイゴン編」、第二部が解放戦線目線の「フエ編」、そして第三部「ハノイ編」を持って完結という構想で全12巻を刊行するも2014年の雑誌休刊により大長編化した物語は二度目の「未完」を迎えます。

 

その後、2016年の画集『The ART of Dien Bien Phu』の刊行を挟み、双葉社「月刊アクション」へ移籍。「最短最速での完結」を目指し全三巻での完結が決定しました。新装版としてIKKI版1〜6巻(第一部)が毎月復刊されるのとと足並みを合わせて、完結編『ディエンビエンフー TRUE END』の連載が2017年にスタート。復刊である『ディエンビエンフー』6巻のラストから物語は『TRUE END』第1話へとつながり、新規読者が「第二部」をショートカットしても物語は完結する構成でした。また「新装版」には巻末のエッセイコミック「アオザイ通信」は収録されず、描き下ろし連作『チョコレート帝國』が収録されています。

 

また同時に、IKKI時代の終盤「未完への抗議行動」としての側面もある「第三部」のトーナメントバトル「胡志明杯」は、伏線が回収しきれないという理由で抹消=「黒歴史」になりました。これは「第二部」のショートカット化よりも大きな物語的な齟齬を生じ、これによってIKKI版11、12巻はなかったことになりました。これは角川版とIKKI版との関係に続く、二度目のパラレルワールド化。「正しい完結=TRUE END」のために「第二部」をショートカットし、「第三部」を「黒歴史」として切り捨てるという、捨て身の完結作戦が『ディエンビエンフー TRUE END』の試みです。

 

また、新装版では未収録となった「アオザイ通信」の版権を活用し、エッセイコミック集として再編集した『アオザイ通信完全版』が双子のライオン堂よりリトルプレスの規模で全3巻が刊行されています。さらに角川版は『ディエンビエンフー0』として「とらしまもよう」他を増補して2012年に復刊されています。

 

画集、復刊、アオザイ通信、サントラ盤やこの「公式サイト」を含め、完結後も末長く『ディエンビエンフー』『ディエンビエンフー TRUE END』の世界をお楽しみください。Xin Cam On.

【アオザイ通信完全版について

角川版時代には存在せず、小学館へ移籍し新連載としてスタートしたIKKI版『ディエンビエンフー』から作品への理解を深めてもらうべく始まったのがベトナムエッセイコミック「アオザイ通信」です。キャッチコピーはが「ベトナムがもっと近くなる!?」。WEBサイト「イキパラ」で連載後、『ディエンビエンフー』全12巻に収録された「アオザイ通信」は72話に及び、さらに「アオザイ通信」の名を冠して雑誌への出張寄稿などもありその数は膨大です。

 

その「アオザイ通信」だけを、リトルプレスの規模で赤坂の書店「双子のライオン堂」からテーマ別にまとめ直し独自に刊行したものが『アオザイ通信完全版』全3巻です。双葉社からの新装版『ディエンビエンフー』には「アオザイ通信」は未収録、代わって短編連作『チョコレート帝國』が掲載されました。結果「アオザイ通信」の出版権が浮いたので、独自に刊行することができました。

 

移籍というイノベーション〜『アオザイ通信完全版』について〜

「渋谷のラジオ」双子のライオン堂店主出演回

 

装丁ではかくたみほさんの写真をあしらうなど、コミック本編よりも自由な仕上がりになっています。本編を知らないくても、広くアジア好き歴史好きにも勧められるエッセイ集となりました。またリトルプレスと言っても、ISBNコードがあり書店流通もしています。通信販売やアマゾン、セブンイレブンの取り寄せサービスなどでもご購入いただけます。

『アオザイ通信完全版 #1 〜食と文化〜』(2017) 通販 amazon 『アオザイ通信完全版 #2 〜歴史と戦争〜』(2017)  通販 amazon

『アオザイ通信完全版 #1 〜旅の終わりと始まり〜』 (2018)通販 amazon

取次流通「H.A.B」サイト